〜「なぜか切ない」「落ち着かない」その感情には理由があります〜
はじめに
夏の夕方――少し涼しくなってホッとする反面、「なんとなく切ない」「落ち着かない」「急に不安になる」と感じる方が増える時期でもあります。
特に精神疾患をお持ちの方にとっては、夕暮れという時間帯が気分変動や不調の引き金になることもあります。
この記事では、「夏の夕暮れがもたらす心理的影響」と「その時間帯にできる対応やサポートの工夫」について、精神科訪問看護の視点からご紹介します。
なぜ、夏の夕暮れは“気分が揺れる”のか?
1. 日照時間の変化と体内リズム
- 夏は日照時間が長く、夕方になっても明るさが続くことで、脳内の「時間感覚」がずれやすくなります。
- 日が沈むとともに分泌されるメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が遅れ、不安定な覚醒状態が長引くことも。
- その結果、「頭は冴えているのに、心は沈んでくる」というギャップが生まれ、気分の揺れや不安感が出やすくなります。
2. “夕暮れ時”特有の心理状態
- 「黄昏反応(たそがれ症候群)」という言葉もあるように、夕方は感情が敏感になりやすい時間帯。
- 特に認知症やうつ状態にある方は、夕暮れになると落ち着かなくなったり、感情が不安定になる傾向があります。
- 夏のセミの声や、夕焼けの色、日中との温度差など、季節的な刺激も感情を揺さぶる要因になります。
訪問看護の現場で見られる変化
- 「夕方になると妙に不安が強くなる」「同じことを何度も聞くようになる」
- 「暗くなる前に部屋の照明をつけ始める」「急に人恋しくなる」「過去の話を繰り返す」
- 「落ち着かず家の外に出たがる」「テレビをつけっぱなしにする」など、普段と違う行動パターンが見られることも
夕暮れの気分変動への具体的な対応策
1. 環境を整える
- 夕方の明るさが変わる前に早めに照明をつけて、部屋の明るさを一定に保つ
- 静かな音楽を流す、カーテンを閉めるなど、安心できる「夕方ルーティン」を整える
- 急な暗さ・静けさが不安を生まないように、ゆるやかに“夜モード”へ移行させる
2. 声かけ・関わりの工夫
- 「今の時間、なんとなく落ち着かないことってありますか?」など、気分に寄り添った声かけ
- 「少しストレッチしましょうか」「お茶をいれますね」など、軽い作業や対話で気分を切り替える
- 不安が強い利用者には、「あと30分で〇〇の時間ですね」など、時間の見通しを示すことで安心感を持たせる
3. 本人の“安心スイッチ”を活用する
- 「お気に入りの飲み物」「決まったテレビ番組」「ペットとのふれあい」など、落ち着ける習慣や物を確認して活用
- 感情が揺れやすい時間帯に無理な説明や変化を求めないことも大切
家族・支援者と共有しておきたいこと
- 「夕方は気分が落ち込みやすい時間です」と事前に共有することで、本人への対応の工夫が生まれやすくなる
- 家族にとっても「なぜ急に不安定になるのか」が分かると、対応への戸惑いが減る
まとめ
夏の夕暮れは、心が静かに揺れる時間です。特に精神的に敏感な方にとっては、「なんとなく不安」「自分でも理由が分からないけど落ち着かない」という時間帯でもあります。
だからこそ、訪問看護ではその“揺れ”に気づき、環境や声かけを通して「大丈夫ですよ」という安心感を届けていくことが大切です。
「夕方が怖くなくなった」「なんとなく安心できるようになった」――そんな変化の一歩を、私たちの関わりから生み出していきましょう。
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