〜「食べられない」が心にも影響する理由とその工夫〜
はじめに
暑さが続く夏は、身体だけでなく心にも影響を与える季節です。特に、食欲不振(食べられない、食が進まない)は「夏バテ」の代表的な症状ですが、精神的な不調を招く一因にもなり得ます。
精神疾患をお持ちの方にとっては、栄養の偏りが気分の波や疲労感を悪化させるリスクもあるため、早めの対応が大切です。
今回は、夏の暑さによる食欲不振とメンタルヘルスの関係、そして実践的な栄養補給の工夫についてご紹介します。
食欲不振とメンタルヘルスの関係
1. 栄養不足が「心のガソリン切れ」に
脳の働きにはブドウ糖、ビタミン、鉄分、タンパク質などの栄養素が欠かせません。食事が不規則になると、集中力の低下・不安感の増加・抑うつ気分など、精神症状の悪化につながる可能性があります。
2. 体力低下は意欲の低下にも
暑さで汗をかきすぎたり、十分に食べられなかったりすると、倦怠感や動きたくない感覚が強くなります。それが長引くと「何もしたくない」「横になっていたい」という気分の落ち込みを助長することもあります。
3. 「食べたくない」が孤立感につながることも
食事を拒否する状態が続くと、家族や支援者とのコミュニケーションが減る場合があります。特に独居の方では、「一人で食べるのが寂しい」「誰にも気づかれずに体調が悪化した」ということも。
訪問看護の現場でよくある声
- 「暑くて何も食べたくない。冷たい水だけ飲んでいる」
- 「そうめんばかりになって、栄養が偏っている気がする」
- 「食事の支度が面倒になってきて、1日1食しか食べていない」
こうした声は、夏の訪問看護の現場ではよく聞かれます。そのため、無理せず続けられる工夫を一緒に見つけていくことが大切です。
食欲がないときの栄養補給の工夫
1. 少量・高栄養の工夫をする
- ゼリー飲料や栄養補助食品(エネルギーゼリー、バランス栄養食など)
→ 食事が進まないときの代替に。冷やすとさらに食べやすくなります。 - たんぱく質を含む飲み物(豆乳、ヨーグルトドリンク、プロテイン)
→ 飲み物として取り入れられるので、食事が苦手でも摂りやすい。
2. 見た目と温度で「食べたい」を引き出す
- 色とりどりの野菜やフルーツを取り入れる(トマト、キュウリ、スイカなど)
- 冷たい料理(冷製スープ、冷やし茶漬け、冷やしうどんなど)を活用する
3. 食事の「回数」にこだわらない
- 1日3食にこだわらず、1日5~6回の小分けスタイルでもOK
→ 負担を減らし、少しずつエネルギーを取り入れる工夫が重要です。
4. 「一緒に食べる」ことの力を活かす
- 訪問看護の時間帯に合わせて「一口だけ食べてみませんか?」と提案する
- 家族や支援者と一緒に食卓を囲むことで、食事の意欲が高まるケースもあります
訪問看護でできるサポート
- 食事内容や摂取状況の確認と、必要に応じた栄養士や主治医との連携
- 食べられそうなメニューの提案(レシピカードや画像の活用も効果的)
- 体重の変化、脱水や栄養失調の兆候(皮膚の乾燥・浮腫・口腔の状態など)の観察
- 「無理に食べさせる」ではなく、「一口でも食べてみよう」という寄り添いの姿勢
まとめ
夏の食欲不振は、ただの「夏バテ」ではなく、メンタルの不調の引き金にもなります。
無理に食べさせることなく、「少しでも体が楽になる食べ方」「続けられる食習慣」を一緒に見つけていくことが、精神科訪問看護においてとても大切です。
心と体をつなぐ“食”のケアで、この夏を少しでも健やかに過ごしていただけますように。