〜「熱中症」だけではない、心の不調としての“脱水”に要注意〜
はじめに
夏の定番ワードといえば「熱中症」。その予防として“こまめな水分補給”が推奨されますが、実は、水分不足は身体だけでなく「心」にも深く関係していることをご存じでしょうか?
精神疾患をお持ちの方や高齢の方は、脱水に気づきにくく、重症化しやすい傾向があります。さらに、軽度の脱水状態でも、気分や思考、行動に影響が出ることがあるのです。
この記事では、脱水と精神状態の関係、そして訪問看護の現場で実践できる見守りや声かけの工夫についてご紹介します。
脱水がもたらす“心の不調”とは?
1. 集中力・判断力の低下
- 体内の水分が不足すると、脳の働きが鈍くなり、集中できなくなることがあります。
- 「ぼーっとする」「会話の理解が遅くなる」「返答が曖昧」などの変化が見られたら要注意です。
2. 気分の落ち込み・不安感の増加
- 軽度の脱水でも気分が落ち込んだり、イライラや不安が増幅することがあります。
- 特にうつ病や不安障害のある方は、いつもより症状が強く出る可能性も。
3. 幻覚・錯乱・せん妄の引き金に
- 高齢者や統合失調症の方では、脱水がきっかけで幻覚や混乱、せん妄状態になることもあります。
- 「急に話がかみ合わない」「場所や時間が分からなくなる」などのサインは脱水の疑いあり。
なぜ精神疾患のある方は脱水に気づきにくいのか?
- 服薬による発汗・排尿の変化(例:抗精神病薬・抗うつ薬など)
- 自発的な飲水の習慣が少ない(「のどが渇いた」と感じにくい)
- 意欲や気力の低下により、水を飲む行動が減る
- 一人暮らしや高齢で、見守りが不十分な環境にある
訪問看護で実践できるチェックと工夫
1. 「のどが渇いていない」でも要注意
- 利用者が「大丈夫」と答えても、皮膚の乾燥・舌の状態・尿の色や回数などを観察
- 「1日にどのくらい水分を摂っていますか?」という質問ではなく、実際の行動を尋ねる(例:「今日、何を飲みましたか?」)
2. 水分補給を“習慣”にする提案
- 目につくところにペットボトルやコップを常備
- 服薬や食事のタイミングにセットで飲水の声かけを
- 1日目標量(例:1.5L)を見える化して貼っておくのも効果的
3. 飲みやすい形での工夫
- お茶や水が苦手な方には麦茶、スポーツドリンク、ゼリー飲料も活用
- 冷たすぎるとお腹が痛くなる方には、常温の水や白湯も選択肢に
- 氷や果物を加えて“楽しい飲み物”にする工夫も◎
ご家族・支援者への共有ポイント
- 「脱水は心にも影響する」という事実をご家族にも理解してもらうことが大切
- 暑さだけでなく、エアコンの効きすぎによる“隠れ脱水”もあることを伝える
- 高齢の方の場合、水分を控える習慣(夜間頻尿の恐れなど)があることも念頭に置く
まとめ
水分不足=熱中症というイメージが強いですが、実は「心のバランス」にも影響を与える静かなリスク要因です。
訪問看護の中で、「気分が落ち込んでいる」「調子が悪そう」と感じた時、“脱水”という視点を持つことが予防につながります。
その一杯の水が、利用者の心と体を支える大切なケアになるかもしれません。