夜間の不安・過覚醒にどう寄り添うか

〜暑くて眠れない利用者への対処法とケアのヒント〜

はじめに

夏の夜、「暑くて眠れない」「頭が冴えて寝つけない」といった声を聞くことはありませんか?

気温が下がりにくい熱帯夜は、ただでさえ眠りにくいもの。特に精神疾患をお持ちの方は、寝つきが悪いことによる不安や焦り、過覚醒状態(神経が高ぶったまま眠れない状態)が強くなり、翌日の気分や体調にも悪影響を及ぼすことがあります。

この記事では、「夜間の不安」「暑さによる睡眠障害」「過覚醒」への理解と、訪問看護の視点からできる支援方法をご紹介します。

「過覚醒」とは何か? なぜ起きるのか?

1. 暑さによる体温調節の乱れ

  • 就寝時に深部体温が下がることが“自然な眠気”を誘導するメカニズムですが、真夏はこの体温低下が起こりにくく、眠りに入りづらくなります。

2. 神経過敏状態の維持

  • 「寝なければ」と思うことで逆に緊張状態が続き、交感神経が優位になり、心拍数が上がり、さらに眠れないという悪循環に。

3. 精神疾患と過覚醒の関係

  • 不安障害:就寝前に「明日のことが心配」「このまま眠れなかったらどうしよう」といった思考が止まらなくなる
  • うつ病:疲れているのに眠れない。夜になると気分が落ち込む「日内変動」が強くなる
  • 統合失調症:幻聴・思考過多が夜間に強まるケースもあり、眠れない原因に

夜間の“眠れない不安”がもたらす影響

  • 翌日の活動意欲の低下、気分の落ち込み、食欲不振
  • 「また眠れないかも…」という不安で生活リズムが崩れる
  • 孤独感や焦燥感が強まり、過剰な服薬や不適切な対応行動につながる可能性も

訪問看護での具体的な支援ポイント

1. 昼間の関わりで「夜」の不安に備える

  • 「昨日は眠れましたか?」と日中の訪問時にさりげなく聞く習慣
  • 睡眠記録表を活用し、眠れた日の共通点やリズムの変化を把握

2. “眠れなくても大丈夫”という考え方を伝える

  • 「布団に入っているだけでも体は休まりますよ」
  • 「眠ろうと頑張りすぎないことが大切です」など、安心感を与える声かけが重要

3. 眠りを誘う夜の習慣を提案

  • 就寝前のルーティン(読書・アロマ・ぬるめのお風呂・深呼吸)を整える
  • 寝具を冷感素材に替える・エアコンや扇風機を工夫して快適な温度を保つ
  • 明かりを落とし、スマホやテレビの光を避ける(ブルーライト対策)

ご本人と一緒にできる工夫

  • 水分摂取のタイミングを見直す(就寝直前ではなく、夕方までにこまめに補給)
  • 「寝つけなければ、一度起きて別のことをする」という無理に寝ようとしない工夫も効果的

ご家族・支援者へのアドバイス

  • 「夜中に起きても慌てず対応を」「声かけは短く静かに」「安心感を伝えるだけで十分なこともある」
  • 睡眠薬や抗不安薬の過剰服用を防ぐための服薬管理を一緒に行うことも大切

まとめ

眠れないことは、それ自体がつらい体験です。
特に夏の夜は「暑さ」と「孤独感」「不安」が重なり、精神的な負担が大きくなる季節です。

訪問看護では、日中の関わりの中でその夜を想定したサポートを行い、「眠れなかったとしても安心して翌日を迎えられる環境づくり」が求められます。

“夜の不安に、昼から寄り添う”――そんなケアの姿勢が、利用者の心に届く一歩になりますように。

脱水と精神状態の関係:水分不足が引き起こす“心の不調”に気づく

〜「熱中症」だけではない、心の不調としての“脱水”に要注意〜

はじめに

夏の定番ワードといえば「熱中症」。その予防として“こまめな水分補給”が推奨されますが、実は、水分不足は身体だけでなく「心」にも深く関係していることをご存じでしょうか?

精神疾患をお持ちの方や高齢の方は、脱水に気づきにくく、重症化しやすい傾向があります。さらに、軽度の脱水状態でも、気分や思考、行動に影響が出ることがあるのです。

この記事では、脱水と精神状態の関係、そして訪問看護の現場で実践できる見守りや声かけの工夫についてご紹介します。

脱水がもたらす“心の不調”とは?

1. 集中力・判断力の低下

  • 体内の水分が不足すると、脳の働きが鈍くなり、集中できなくなることがあります。
  • 「ぼーっとする」「会話の理解が遅くなる」「返答が曖昧」などの変化が見られたら要注意です。

2. 気分の落ち込み・不安感の増加

  • 軽度の脱水でも気分が落ち込んだり、イライラや不安が増幅することがあります。
  • 特にうつ病や不安障害のある方は、いつもより症状が強く出る可能性も。

3. 幻覚・錯乱・せん妄の引き金に

  • 高齢者や統合失調症の方では、脱水がきっかけで幻覚や混乱、せん妄状態になることもあります。
  • 「急に話がかみ合わない」「場所や時間が分からなくなる」などのサインは脱水の疑いあり。

なぜ精神疾患のある方は脱水に気づきにくいのか?

  • 服薬による発汗・排尿の変化(例:抗精神病薬・抗うつ薬など)
  • 自発的な飲水の習慣が少ない(「のどが渇いた」と感じにくい)
  • 意欲や気力の低下により、水を飲む行動が減る
  • 一人暮らしや高齢で、見守りが不十分な環境にある

訪問看護で実践できるチェックと工夫

1. 「のどが渇いていない」でも要注意

  • 利用者が「大丈夫」と答えても、皮膚の乾燥・舌の状態・尿の色や回数などを観察
  • 「1日にどのくらい水分を摂っていますか?」という質問ではなく、実際の行動を尋ねる(例:「今日、何を飲みましたか?」)

2. 水分補給を“習慣”にする提案

  • 目につくところにペットボトルやコップを常備
  • 服薬や食事のタイミングにセットで飲水の声かけ
  • 1日目標量(例:1.5L)を見える化して貼っておくのも効果的

3. 飲みやすい形での工夫

  • お茶や水が苦手な方には麦茶、スポーツドリンク、ゼリー飲料も活用
  • 冷たすぎるとお腹が痛くなる方には、常温の水や白湯も選択肢に
  • 氷や果物を加えて“楽しい飲み物”にする工夫も◎

ご家族・支援者への共有ポイント

  • 「脱水は心にも影響する」という事実をご家族にも理解してもらうことが大切
  • 暑さだけでなく、エアコンの効きすぎによる“隠れ脱水”もあることを伝える
  • 高齢の方の場合、水分を控える習慣(夜間頻尿の恐れなど)があることも念頭に置く

まとめ

水分不足=熱中症というイメージが強いですが、実は「心のバランス」にも影響を与える静かなリスク要因です。
訪問看護の中で、「気分が落ち込んでいる」「調子が悪そう」と感じた時、“脱水”という視点を持つことが予防につながります

その一杯の水が、利用者の心と体を支える大切なケアになるかもしれません。

夏の夕暮れと気分変動:日照時間と気分の“揺れ”にどう向き合うか

〜「なぜか切ない」「落ち着かない」その感情には理由があります〜

はじめに

夏の夕方――少し涼しくなってホッとする反面、「なんとなく切ない」「落ち着かない」「急に不安になる」と感じる方が増える時期でもあります。

特に精神疾患をお持ちの方にとっては、夕暮れという時間帯が気分変動や不調の引き金になることもあります。
この記事では、「夏の夕暮れがもたらす心理的影響」と「その時間帯にできる対応やサポートの工夫」について、精神科訪問看護の視点からご紹介します。

なぜ、夏の夕暮れは“気分が揺れる”のか?

1. 日照時間の変化と体内リズム

  • 夏は日照時間が長く、夕方になっても明るさが続くことで、脳内の「時間感覚」がずれやすくなります。
  • 日が沈むとともに分泌されるメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が遅れ、不安定な覚醒状態が長引くことも。
  • その結果、「頭は冴えているのに、心は沈んでくる」というギャップが生まれ、気分の揺れや不安感が出やすくなります。

2. “夕暮れ時”特有の心理状態

  • 「黄昏反応(たそがれ症候群)」という言葉もあるように、夕方は感情が敏感になりやすい時間帯
  • 特に認知症やうつ状態にある方は、夕暮れになると落ち着かなくなったり、感情が不安定になる傾向があります。
  • 夏のセミの声や、夕焼けの色、日中との温度差など、季節的な刺激も感情を揺さぶる要因になります。

訪問看護の現場で見られる変化

  • 「夕方になると妙に不安が強くなる」「同じことを何度も聞くようになる」
  • 「暗くなる前に部屋の照明をつけ始める」「急に人恋しくなる」「過去の話を繰り返す」
  • 「落ち着かず家の外に出たがる」「テレビをつけっぱなしにする」など、普段と違う行動パターンが見られることも

夕暮れの気分変動への具体的な対応策

1. 環境を整える

  • 夕方の明るさが変わる前に早めに照明をつけて、部屋の明るさを一定に保つ
  • 静かな音楽を流す、カーテンを閉めるなど、安心できる「夕方ルーティン」を整える
  • 急な暗さ・静けさが不安を生まないように、ゆるやかに“夜モード”へ移行させる

2. 声かけ・関わりの工夫

  • 「今の時間、なんとなく落ち着かないことってありますか?」など、気分に寄り添った声かけ
  • 「少しストレッチしましょうか」「お茶をいれますね」など、軽い作業や対話で気分を切り替える
  • 不安が強い利用者には、「あと30分で〇〇の時間ですね」など、時間の見通しを示すことで安心感を持たせる

3. 本人の“安心スイッチ”を活用する

  • 「お気に入りの飲み物」「決まったテレビ番組」「ペットとのふれあい」など、落ち着ける習慣や物を確認して活用
  • 感情が揺れやすい時間帯に無理な説明や変化を求めないことも大切

家族・支援者と共有しておきたいこと

  • 「夕方は気分が落ち込みやすい時間です」と事前に共有することで、本人への対応の工夫が生まれやすくなる
  • 家族にとっても「なぜ急に不安定になるのか」が分かると、対応への戸惑いが減る

まとめ

夏の夕暮れは、心が静かに揺れる時間です。特に精神的に敏感な方にとっては、「なんとなく不安」「自分でも理由が分からないけど落ち着かない」という時間帯でもあります。

だからこそ、訪問看護ではその“揺れ”に気づき、環境や声かけを通して「大丈夫ですよ」という安心感を届けていくことが大切です。
「夕方が怖くなくなった」「なんとなく安心できるようになった」――そんな変化の一歩を、私たちの関わりから生み出していきましょう。

お盆期間のメンタルケア:帰省や家族関係のストレスに向き合う

〜「みんなが集まる季節」に感じる孤独・プレッシャーへの寄り添い〜

はじめに

8月といえば、「お盆」の季節です。家族や親戚が集まる機会が増え、久しぶりの再会や会話に心が温まる場面も多い一方で、精神的な負担や緊張、孤独を感じる方も少なくありません

特に精神疾患を抱える方にとっては、お盆の“非日常”が生活リズムの乱れや不安の引き金になることもあります。
この記事では、訪問看護の視点から「お盆時期に起こりやすいメンタルの変化」と「それに対する具体的なケア方法」についてご紹介します。

お盆シーズンに起こりやすい心の変化

1. 「帰省できない/しない」ことへの孤独感

  • 実家に戻ることが難しい、家族関係に距離がある、などの事情から“ひとりのお盆”を過ごす利用者も多くいます。
  • SNSやテレビで「家族団らん」の映像を見ることで、孤独や疎外感を強く感じてしまうことがあります。

2. 家族との再会によるプレッシャー・緊張

  • 「ちゃんとして見られたい」「元気にふるまわなければ」と無理をして疲弊してしまうケースも。
  • 家族との会話の中で、病気や生き方についての無意識な“干渉”や“否定”に傷ついてしまうことも。

3. 非日常による生活リズムの乱れ

  • 家族が在宅になったり、来客が増えることで普段のペースが乱れやすくなる
  • 外食や移動が続くことで、睡眠や服薬のリズムが崩れやすい

訪問看護の現場でできる支援

1. 「いつも通りの関わり」が安心につながる

  • 訪問日程を大きくずらさず、「お盆もいつも通りに訪問しますよ」と伝えるだけで安心感を得られるケースもあります。
  • “非日常の中にある日常”の提供が精神的な安定を支える大きな鍵になります。

2. 気持ちの揺れに気づき、そっと寄り添う

  • 「家族とは会えそうですか?」「お盆はどんな風に過ごす予定ですか?」とさりげない会話で心の状態を把握
  • 急に涙を流したり、話題を避ける様子があれば、無理に聞き出さず、安心できる話題に切り替える配慮

3. 体調・生活リズムの確認と調整

  • 普段より寝不足・疲労・胃腸の不調などが出やすい時期です
  • 睡眠・食事・服薬の乱れが見られる場合は、記録やタイマー利用などのサポートを提案することも有効

ご家族への支援・声かけのポイント

  • 「お会いできるのを楽しみにしていた」「元気そうで安心した」といった肯定的な言葉で始めることが大切
  • ご本人の前で病状・服薬・通院についての議論が加熱しすぎないよう配慮
  • ご家族が不安や負担を抱えている場合は、相談窓口や支援制度の情報提供を行いましょう

まとめ

お盆の時期は、見えにくい「心の揺れ」が多く起こりやすいタイミングです。
大切なのは、「特別なことをしようとする」よりも、普段通りの関わりを丁寧に行うこと
訪問看護だからこそできる“寄り添い”で、利用者の方が「安心してこの時期を乗り切れた」と思えるようなサポートを届けていきましょう。